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2005年6月14日 (火)

私のカスタ・ディーバⅠ

私のカスタ・ディーバ(清らかな女神よ)

忘れえぬ思い出であるとともに、これは歴史の証言でもある。

何回かにわたって書き記したいと思っています。

是非とも最後までお付き合い下さい。

忘れもしない、今でもはっきりと私の記憶に焼きついているコンサートがあります。

1973年5月20日、それは今から32年も前のことです。

私は当時25歳、新幹線に乗って大阪に向かいました。

予定していた時刻より少し早めに中ノ島の、大阪国際フェスティバルホールに到着し、会場に入り開演を待つことにいたしました。

この日の演奏会のタイトルは、

「第3回マダム・バタフライ世界コンクール受賞記念演奏会」「マリア・カラス、ジョゼッペ・ディ・ステファノ ゼミナールコンサート」

この長い名前の演奏会がその時始まろうとしておりました。

世紀の歌姫、永遠のプリマドンナ「マリア・カラス」がいよいよ初めて日本の聴衆の前にその姿を現わすことになっており、その瞬間が刻一刻と近ずいていたのです。

フェスティバルホールを埋め尽くした聴衆は皆、等しく大きな期待と、またその期待と同じくらいに大きな不安を胸に、心地よいざわめきの中、その瞬間を固唾を呑んで待っておりました。

開演5分前、一ベルのチャイムが会場に鳴り響き、ざわついていた会場が水を打ったように静かになり、いよいよと期待を胸一杯に広げて開演のベルを待っていたのです。

ところが、定刻を過ぎても開演のチャイムがなかなか鳴りません。5分、10分、15分、やがて胸一杯の期待は、胸一杯の不安へと変わって行くにしたがい、会場もまたざわめき始めました。

多くの伝説に彩られたカラスのことだから、本当に出てくるのだろうか?、土壇場でキャンセルをしたのではないだるうか?、等々よぎる不安を打ち消そうと、祈るような気持ちでその一瞬一瞬を過ごしていたのは、私一人ではなかったのです。

会場を埋めている聴衆のほとんどが同じように感じていたようです。

約20分後、待ちに待った本ベルが鳴り響き、アナウンスと共に、この日マリア・カラスとジョゼッペ・ディ・ステファノのレッスンを受けることになっている、マダム・バタフライ世界コンクールの第一位、第二位、第三位の入賞者や、役員スタッフ等が拍手の中、次々とステージ下手からその姿を現わしはじめました。

全員がステージ上に整列し終わり、カラスとディ・ステファノの二人を、そのステージに迎える態勢を整えて、二人が姿を現わすのを待つということになりました。

会場の拍手は一段と激しさを増し、その期待と不安の気持ちは、極限にまで達していましたが、二人はなかなか出てきません。

やがて、ディ・ステファノが一人タキシードでステージに姿を現わし、客席に向かってその声援に応えてから、舞台下手の袖に向かって片手を差し伸べ「マダム、マダム!」と声をかけました。

次の瞬間、まさに忘れられぬ歴史的な一瞬を迎えたのです。

カラスは、グリーンの上着にグリーンのロングスカート、グリーンのバッグにグリーンのハイヒールという鮮やかないでたちで、真っすぐ上手の方を向いたまま、大またでバッサバッサとステージに現われ、ステージ中央の少し手前ぐらいのところまで一気に進み、客席のほうに背中を向けるように、右足が前に出た半身の状態でぴたりと止まりました。

次の瞬間、客席の方に、身体はそのまま顔だけで振り返り、にっこりとあの紛れもないカラスの笑顔を聴衆の前に見せたのです。

その瞬間、会場にドドドドーという地震のような振動が起きたのです。なんとそれは2000人の聴衆がほとんど同時に溜息をついたのです。

あのカラスの笑顔を見たとたん 「あ!本物のカラスだ!」と誰もが心の中で叫び、ついにカラスに会うことができたと思った瞬間、今までの期待と不安と極度の緊張から一瞬のうちに開放され、その会場に居合わせたほとんどの人が安堵の溜息を一斉についたからです。

マリア・カラスは、その一瞬にして、完璧に2000人の聴衆の心を自らの手のひらのなかに取り込んでしまったのです。

それからの約二時間半、聴衆はカラスの一挙手一投足に完全に支配されることになりました。

これこそが本物の世界のプリマ、世紀の歌姫、と言われた、マリア・カラスの、その類い稀なるカリスマ性と言われるところのものなのでしょう。幸運にもそれを目の当たりにすることがで来たのです。

以下次回につづく

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